こんな腰痛、ありませんか?
- デスクワークで座っていると、片側のお尻の上がだんだん痛くなってくる
- 椅子から立ち上がった最初の一歩が「ズキッ」とする
- 痛いほうを下にして横向きで寝られない
- 病院でレントゲンやMRIを撮っても「異常なし」と言われた
ひとつでも当てはまる方は、骨盤にある「仙腸関節(せんちょうかんせつ)」が痛みの原因かもしれません。仙腸関節は画像検査で異常が出にくく、「原因のわからない腰痛」として見過ごされやすい場所です。
でも、決して珍しい痛みではありません。
- 腰痛で初めて受診した人の約1割: 日本仙腸関節研究会の村上医師の調査で、仙腸関節障害と診断されました(日本医事新報)。
- 慢性腰痛の人の約15〜30%: 海外の総説では、脚へのしびれを伴わない慢性的な腰痛のうち、この割合が仙腸関節由来とされています(Cohen et al., 2013)。国内の総説でも、慢性腰痛の約10〜30%に仙腸関節痛が関わると紹介されています(日本医科大学医学会雑誌)。
- 腰の一番下(腰椎と仙骨の境目)より下が主に痛む慢性腰痛の人の30%: 43人を調べた研究で、仙腸関節への注射により痛みがはっきり和らぎました(Schwarzer et al., Spine 1995)。
腰痛に悩む人の数人に1人は、仙腸関節が関わっている可能性があるのです。
とはいえ「仙腸関節」と言われても、どこにあって何をしているのか、ピンとこない方がほとんどでしょう。この記事では、理学療法士の立場から、まず仙腸関節の場所と役割をイメージしていただき、そこから「なぜ痛むのか」「どう見分けるのか」「どうケアするのか」へと順にお話しします。
まず触ってみよう:仙腸関節はここにあります
説明を読む前に、ご自分の体で場所を確かめてみましょう。
- 立った姿勢で、両手を腰に当てます(ベルトを巻くあたり)。
- 手のひらを腰に当てたまま、親指を背中側に回し、骨盤のふちに沿って斜め下・内側へ滑らせます。
- お尻の割れ目の少し上、左右に「コリッ」とした骨の出っ張りが見つかります。これが**上後腸骨棘(じょうこうちょうこつきょく:PSIS)**です。背中側から見ると、腰の下に小さな「えくぼ」ができる位置です。
- その出っ張りのすぐ内側から下にかけてが、仙腸関節です。
骨盤は1つの骨に見えますが、実際は真ん中の仙骨(背骨の土台になる逆三角形の骨)と、左右の腸骨(腰に手を当てたときに触れる大きな骨)が組み合わさってできています。仙骨と腸骨のつなぎ目、つまり「仙」骨と「腸」骨の関節だから「仙腸関節」。左右に1つずつあります。
仙腸関節の役割:上半身の重さを脚へ伝える「つなぎ目」
仙腸関節の一番の仕事は、上半身の重さを脚へ伝えること(荷重伝達)です。頭や腕、胴体の重さは背骨を通って仙骨に集まり、仙腸関節を経由して左右の腸骨、股関節、そして脚へと伝わります。反対に、歩いたり走ったりするときに地面から受ける力も、脚から仙腸関節を通って上半身へ伝わります(日本医科大学医学会雑誌)。仙腸関節は、上半身と下半身の力が行き来する「つなぎ目」なのです。
両手で本を挟むイメージ
このつなぎ目がどうやって重さを支えているのか、身近なもので考えてみましょう。1冊の本を、両手で左右から挟んで持ち上げてみてください。
- 本 = 仙骨(真ん中の骨)
- 両手 = 左右の腸骨
- 本に乗せた重り = 上半身の重さ
本が下にずり落ちずに重さを支えていられるのは、次の3つのおかげです。
| 本のたとえ | 仙腸関節では | 専門用語 |
|---|---|---|
| 本と手のひらがピッタリ合う | 仙骨は上が広く下が狭いくさび形で、関節面のでこぼこがかみ合って滑りにくい | 形による安定(フォームクロージャー) |
| 本と手の間をテープで留めている | 関節の周りを、丈夫な靭帯が何重にも取り囲んでいる | 形による安定(フォームクロージャー) |
| 両手でギュッと挟む | お腹の深い筋肉(腹横筋)やお尻の筋肉(大殿筋)などが、骨盤を外から締めつける | 力による安定(フォースクロージャー) |
この3つがそろうことで、仙腸関節はほとんど動かずに(動く幅は数ミリ以下)、重さを確実に脚へ伝えられます。ほんのわずかな遊びがあることで、着地などの衝撃も少しだけ和らげています。
ふだんは、重さがかかる瞬間に**挟む手(筋肉)**がタイミングよく力を入れるので、**テープ(靭帯)**に無理な力はかかりません。この関係が、痛みの仕組みを理解するカギになります。
仙腸関節の周りは「靭帯だらけ」:痛みの多くはここから
仙腸関節は、ひざやひじのような一般的な関節とは少し違います。関節の前側は関節包に包まれた普通の関節ですが、後ろ側は関節包がはっきりしないことも多く、代わりに太く強い靭帯が骨と骨をつないでいます(臨床整形外科, 2016)。つまり仙腸関節の後ろ半分は、靭帯そのものが関節の一部になっているのです。
主な靭帯は次のとおりです。
| 靭帯 | 場所 | 役割 |
|---|---|---|
| 骨間仙腸靭帯 | 仙骨と腸骨のすき間の奥 | 関節のすき間を埋める、最も強い靭帯 |
| 後仙腸靭帯 | 関節の後ろ側、PSISのすぐ近く(表面から触れる位置) | 仙骨と腸骨を後ろから留める |
| 仙結節靭帯 | 仙骨からお尻の奥の坐骨へ | 仙骨が前に傾きすぎないように引き留める |
| 腸腰靭帯 | 一番下の腰の骨(第5腰椎)から骨盤へ | 腰と骨盤をつなぎ、ぐらつきを抑える |
| 前仙腸靭帯 | 関節の前側(お腹側) | 関節を前から補強する |
大事なのは、これらの靭帯や関節包には痛みを感じるセンサー(侵害受容器)がたくさんあるという点です(日本医科大学医学会雑誌)。そのため仙腸関節の痛みは、関節の中からだけでなく、周りの靭帯から出ることがあります。むしろ日本の専門施設では、関節の後ろ側の靭帯から出る痛みが多いと考えられており、診断の注射も関節の中だけでなく後ろの靭帯に行うことがあります(メディカルノート)。治りにくいケースでは、仙結節靭帯や腸腰靭帯といった周辺の靭帯も痛みの原因として治療の対象になります(別冊整形外科, 2019)。
PSISを押すと痛い、お尻の奥を押すと痛い、といった症状は、この靭帯の痛みを反映していると考えられます。
なぜ痛むのか:挟む力がゆるむと、テープ(靭帯)が引っ張られる
もう一度、両手で本を挟んでいる場面を思い浮かべてください。手の力がふっと抜けると、本はほんの少しずり落ちます。すると、本と手を留めていたテープがピンと引っ張られます。
仙腸関節でも同じことが起こります。挟む手にあたる筋肉の支えがうまく働かないと、重さを受け止める役目を靭帯が一手に引き受けることになります。関節がわずかにずれて引っかかり、靭帯が引っ張られ続け、そこにあるセンサーが痛みを出すのです。
何がきっかけで挟む力がゆるんだり、重さが偏ったりするのかを整理すると、次のようになります。
| 本のたとえ | きっかけになること | その結果 |
|---|---|---|
| 本の片側にばかり重りが乗る | 座りっぱなし、足を組む、いつも同じ脚に体重をかける | 片側の関節と靭帯にばかり負担が集中する |
| 不意に重りがドンと乗る | 中腰で急に重い物を持つ、勢いよくひねる、尻もちをつく | 筋肉が締めるタイミングに間に合わず、関節がわずかに引っかかる |
| 挟む手やテープがゆるい | 出産後の靭帯のゆるみ、運動不足による筋力低下 | 支えが弱まり、少しの負担でも引っかかりやすくなる |
どのきっかけでも、行き着く先は同じです。関節がほんのわずかに引っかかったまま戻らなくなると、後ろ側の靭帯が引っ張られ続ける状態になります。本のたとえでいえば、ずり落ちた本の重さをテープだけで支え続けている状態です。靭帯が張りつめ、そこにあるセンサーが刺激され続けることが、仙腸関節痛の正体です(別冊整形外科, 2019)。
だからこう痛む:役割を知ると症状の理由がわかる
仙腸関節が「上半身の重さを受け止める中継地点」で、「後ろ側の靭帯から痛みが出る」と知ると、特徴的な症状にも説明がつきます。
| よくある症状 | なぜそうなるのか |
|---|---|
| 片側のお尻の上(PSISのあたり)が痛む | 痛みを出している後ろ側の靭帯が、ちょうどこの位置にあるため |
| 椅子に座っていると痛くなる | 座ると脚で体重を分散できず、上半身の重さが骨盤にまっすぐ乗り、仙腸関節に負担が集中するため |
| 立ち上がりの一歩目、歩き始めが痛い | 座った姿勢から体重を脚へ受け渡す瞬間に、ダンパーが急に働くため |
| 痛い側を下にして寝られない | 横向きで寝ると、下になった側の骨盤に体重と圧迫がかかるため |
| 寝返り、片脚立ち、階段がつらい | 左右の骨盤に違う力がかかる「ねじれ」の動きが、引っかかった関節を刺激するため |
| 足の付け根(鼠径部)や太ももが痛む | 仙腸関節周辺の痛みは、お尻から鼠径部、太ももの外側・裏側へ広がることがあるため |
一方で、腰の真ん中(背骨の上)が痛む場合や、すね・足先までしびれが走る場合は、仙腸関節以外の原因も考える必要があります。
セルフチェック:研究で使われている方法で確かめよう
仙腸関節痛は画像に写らないため、「どこが痛むか」「どんな場面で痛むか」「どこを押すと痛むか」を組み合わせて判断します。ここでは、実際の研究や診療で使われている方法をもとに、ご自分で確かめられる形にしてご紹介します。
チェック1:ワンフィンガーテスト(指1本で痛む場所を指す)
日本の仙腸関節研究の第一人者である村上医師が考案した方法です。やり方はとても簡単です。
- 立った姿勢で、「一番痛い場所」を人差し指1本で指します。手のひら全体で「このへん」と示すのではなく、ピンポイントで指すのがポイントです。
- 指した場所が、先ほど触って確かめたお尻の上の骨の出っ張り(PSIS)のあたりかどうかを確認します。
村上医師らの調査では、PSIS周辺を指した人の85%が、最終的に仙腸関節障害と診断されました(日本医事新報)。一方、指した場所が腰の真ん中(背骨の上)であれば、椎間板や椎間関節など別の原因の可能性が高くなります。
チェック2:「仙腸関節スコア」を自分でつけてみる
JCHO仙台病院の黒澤医師らは、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と見分けるために、6つの項目に点数をつける「仙腸関節スコア」を作りました。合計9点満点で、4点以上が仙腸関節痛を疑う目安とされています。別の病院での検証研究でも、一定の有用性が確認されています(Journal of Pain Research, 2018)。
| 項目 | 点数 | 自分で確かめる方法 |
|---|---|---|
| ワンフィンガーテストでPSIS周辺を指す | 3点 | チェック1の方法で |
| 足の付け根(鼠径部)にも痛みがある | 2点 | 普段の痛みを振り返る |
| 背もたれのない椅子に座ると痛む | 1点 | 丸椅子などに座って様子をみる |
| PSISを押すと痛い(圧痛) | 1点 | 骨の出っ張りを親指でゆっくり押してみる |
| 仙腸関節のずれを誘発するテストで痛む | 1点 | 専門家が行う(自分では行わない) |
| お尻の奥の靭帯(仙結節靭帯)を押すと痛い | 1点 | 専門家が行う(自分では行わない) |
表の上から4つは自分で確かめられる項目で、合計7点です。自分で確かめられる項目だけで4点以上になる場合は、仙腸関節が原因である可能性を医師や理学療法士に相談してみる価値があります。ただし、このスコアは本来、医師が診察の中で使うためのものです。セルフチェックの点数だけで「仙腸関節痛だ」「違う」と決めつけないでください。
チェック3:生活の中の「あるある」チェック
- 椅子に座っていると、15〜30分ほどで痛みが強くなり座り直したくなる
- 椅子から立ち上がった最初の数歩が特につらい
- 痛い側を下にして横向きに寝られない
- 寝返りを打つときにお尻の上が痛む
- 片脚立ち(靴下をはく、階段を上る)で痛む側に体重をかけるとつらい
- 痛みは片側で、すねや足先まではしびれが広がらない
当てはまる項目が多いほど、仙腸関節に負担がかかっている可能性が高まります。
自分でできるケア:ダンパーを助ける「ほぐす」と「支える」
仙腸関節そのものを自分で動かして「戻す」ことはできません。でも、ダンパーの仕組みを思い出してください。仙腸関節は「周りの関節の動き」と「筋肉のチームワーク」に支えられています。ケアの考え方はシンプルで、次の2つです。
- ほぐす: 股関節や腰がかたいと、本来そこで受け止めるはずの動きや衝撃が仙腸関節にしわ寄せされます。周りを柔らかくして、仙腸関節の負担を減らします。
- 支える: お腹の深い筋肉やお尻の筋肉を働かせて、「筋肉による安定」を取り戻します。
専門の医療機関でも、隣の関節(腰・股関節)の動きを良くすること、腹横筋などお腹の筋肉を強くすること、骨盤ベルト、日常動作の見直しが理学療法の柱とされています(臨床整形外科, 2025)。
始める前の約束: 痛みが強まる運動はすぐに中止します。「気持ちよく伸びる」「少しきつい」程度が目安です。痛めた直後で、動くたびにズキッとする時期は無理をせず、負担を減らすことを優先してください。
ステップ1:ほぐす(周りの柔軟性)
- お尻のストレッチ: 仰向けで片膝を両手で抱え、反対側の肩のほうへゆっくり引き寄せます。お尻の外側が伸びればOK。20〜30秒×左右2回。
- 股関節の前のストレッチ: 片膝立ちになり、お腹に軽く力を入れたまま体をゆっくり前へ移します。後ろ脚の付け根が伸びればOK。腰を反らさないのがコツです。20〜30秒×左右2回。
- 太もも裏のストレッチ: 仰向けで片脚を上げ、足の裏にタオルをかけてゆっくり手前に引きます。20〜30秒×左右2回。
ステップ2:支える(筋肉のチームワーク)
- ドローイン: 仰向けで膝を立て、息を吐きながらおへそを背骨に近づけるようにお腹をへこませます。腰を床に押しつけず、お腹だけを薄くするイメージです。10秒キープ×10回。
- ブリッジ: ドローインをしたまま、お尻を持ち上げます。肩から膝までが一直線になったら3秒止めて、ゆっくり下ろします。10回×2セット。
- 四つ這いで手脚を伸ばす: 四つ這いでお腹をへこませ、片手と反対側の脚を床と平行まで伸ばします。骨盤が左右に傾かないように5秒キープ×左右10回。
2〜3週間続けても変化がない、または悪化する場合は、自己流を続けずに専門家に相談してください。痛みの出方によって合う運動は人それぞれ違います。
日常生活のコツと骨盤ベルト
仙腸関節は、左右で違う力がかかる「ねじれ」と、中腰で急に重さがかかる場面が苦手です。日々の小さなクセを見直すだけでも、ダンパーへの負担は減らせます。
- 座り方: 浅く腰かけず、お尻の下の骨(坐骨)2つに均等に体重を乗せます。足は組まず、30分に1回は立ち上がりましょう。
- 立ち上がり方: 片脚に体重をかけず、両足で床を踏んでから、お辞儀をするように立ちます。
- 物の持ち方: 腰だけを曲げずに膝を曲げてしゃがみ、荷物を体に近づけて持ちます。重い物を持ったまま体をひねらないこと。
- 寝方: 痛い側を上にした横向きで、膝の間にクッションを挟むと楽になります。
- 荷物の持ち方: バッグはいつも同じ側で持たず、左右交互に。リュックもおすすめです。
骨盤ベルトは、ゆるんだ「筋肉による安定」を外から補う道具です。巻く位置はウエストではなく、お尻の上の骨の出っ張り(PSIS)と太ももの付け根の骨の出っ張り(大転子)の間、骨盤の低い位置が基本です。きつく締めすぎず、痛みが落ち着いてきたら少しずつ外す時間を増やし、最終的には自分の筋肉で支えられる状態を目指します。産後の方は産後用のベルトを選ぶとよいでしょう。


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