猫背が顔をたるませる科学的理由〜理学療法士が解説する姿勢と美容の関係〜

姿勢改善

「スキンケアも美顔器も頑張っているのに、なんだか顔がたるんできた気がする」

そんな悩みを抱えていませんか? もしかするとその原因は、スキンケアではなく「姿勢」にあるかもしれません。

理学療法士として日々多くの方の姿勢を見ていると、猫背やスマホ首の方に共通する顔の変化があることに気づきます。実は近年、姿勢と顔のたるみの関係を科学的に検証した研究も出てきています。今回は、その研究をもとに「なぜ猫背が顔をたるませるのか」を一般の方にもわかりやすく解説します。

「スマホフェイス」という言葉をご存知ですか

スマートフォンを見るとき、私たちは無意識に頭を前に突き出し、下を向いています。この姿勢が習慣化すると、顔の輪郭が変化してしまうことがあり、これは「スマホフェイス」と呼ばれています。

この点を科学的に検証したのが、韓国の化粧品研究機関(アモーレパシフィック研究開発センター)が2021年に「Journal of Cosmetic Dermatology」という美容皮膚科学の専門誌に発表した研究です。

研究では、30歳前後の若年女性11名と、60歳前後の女性10名、合計21名を対象に、「立った状態」「仰向けの状態」「頭を30度前に傾けた状態」「45度前に傾けた状態」という4つの姿勢で顔を3Dスキャンし、顔の各パーツ(頬・あご・目元など)の位置が姿勢によってどれだけ、どの方向にずれるかをミリ単位で計測しました。

結果は次のようなものでした。

  • 頭を前に傾ける姿勢では、顔の組織が前方向へ移動し、特に頬からあごにかけての「顔の下半分」で変化が大きかった
  • この変化は、若年グループより高齢グループのほうが顕著だった
  • 皮膚の弾力(エラスティシティ)を測定したところ、弾力が低い人ほど組織の移動距離が大きい、つまり「たるみやすい」という負の相関がみられた

サンプル数が21名と決して大規模な研究ではないため、これだけで断定はできませんが、「頭を前に傾ける姿勢が、重力を介して顔の下部の組織を実際に動かす」ことを3D計測という客観的な方法で示した点で、価値のあるデータだといえます。

そもそも猫背とはどんな姿勢か

猫背というと背中が丸まっているイメージが強いですが、医学的には「頭部前方位姿勢」と呼ばれる、頭が体より前に出てしまう状態が大きく関わっています。

専門的には、耳の穴の中心と首の付け根(第7頸椎)を結んだ線の角度(頭蓋頸椎角)で評価されることが多く、この角度が小さいほど頭が前に出ていることを意味します。デスクワークやスマホの操作時間が長い方ほど、この角度が小さくなりやすいことが知られています。

なぜ猫背は顔のたるみにつながるのか

猫背が顔に影響を与える経路は、主に3つ考えられます。

1. 重力が顔にかかる方向が変わる

顔が正面を向いているときと、頭が前に傾いているときとでは、皮下組織にかかる重力の向きが変わります。頭が前に傾くほど、頬やあごまわりの組織が下方・前方へ引っ張られやすくなり、これが二重あごや頬のたるみとして現れやすくなると考えられています。先ほど紹介した3D計測の研究も、この考え方を裏付けるものです。

2. 噛む筋肉(咀嚼筋)の緊張バランスが崩れる

これを最初に報告したのは、日本の研究者オオムレらが2008年に発表した実験です。健康な成人に対して、あえて頭部を前方に突き出した姿勢を取らせ、自然な頭部姿勢のときと比較したところ、あご関節(顎関節)の中で下あごの骨(下顎頭)の位置が、通常よりも後方にずれることが確認されました。同時に、頬の筋肉(咬筋)とあごの下の筋肉(顎二腹筋)の筋電図(筋肉が働く際の電気信号)を測定したところ、これらの筋活動がわずかに増加することもわかりました。

さらに2023年、上海交通大学のグループが「Clinical Oral Investigations」誌に発表した研究では、あごの関節に不調を抱える患者145名を対象に、頭蓋頸椎角(CVA)が51度以下の「頭部前方位姿勢」のグループと、そうでないグループに分け、頬やこめかみの筋肉を指で押したときにどのくらいの圧力で痛みを感じるか(圧痛閾値)を比較しました。その結果、頭部前方位姿勢のグループは、咀嚼筋の圧痛閾値が低い、つまり同じ筋肉でもより敏感で緊張しやすい状態にあることが示されました。

これらの研究をまとめると、「頭が前に出る姿勢が続く→あごの関節の位置がずれる→噛む筋肉に余計な負荷がかかり続ける→筋肉の緊張バランスが崩れる」という流れが起こりやすいと考えられます。噛む筋肉はフェイスラインの形にも直結しているため、この緊張バランスの崩れが、あご周りのもたつきや左右差として表面化することがあるのです。

3. 首まわりの筋肉が常に緊張し、血流・リンパの流れが滞りやすくなる

猫背の姿勢を長時間続けると、頭の重さ(成人でボウリングの玉1個分、約5kg前後といわれます)を支えるために首や肩の筋肉が常に緊張した状態になります。筋肉が緊張し続けると血流やリンパの流れが悪くなりやすく、顔のむくみや、たるみの一因になっている可能性があると考えられています。この点についてはまだ研究の途上にある部分もありますが、臨床の現場では実感として非常によく見られる変化です。

姿勢を改善する運動で、実際に角度は変わるのか

「姿勢を良くしても本当に変わるの?」と思う方もいるかもしれません。この点については、姿勢矯正の効果をランダム化比較試験(RCT)という、信頼性の高い研究デザインで検証した論文がいくつも存在します。

一つは、60歳以上で猫背(胸椎後弯)のある高齢者40名を対象にした臨床試験です。参加者を20名ずつ2グループに分け、一方には遠隔リハビリ(オンライン指導)による呼吸法と姿勢矯正運動を週3回・6週間実施し、もう一方には一般的なストレッチのみを行ってもらいました。結果、運動を行ったグループでは、猫背の角度、頭蓋頸椎角(頭部前方位の指標)、胸郭の広がりやすさ、生活の質(QOL)のすべてにおいて、ストレッチのみのグループより統計的に有意な改善がみられました。

もう一つは、首の痛みを抱える高齢者66名を対象にした2023年のRCT(「Journal of Clinical Medicine」誌掲載)です。姿勢矯正エクササイズと専用の牽引装具を6週間・計18回行ったグループと、一般的な首のストレッチ・筋力トレーニングを行ったグループを比較したところ、両グループとも頭蓋頸椎角の改善がみられましたが、装具を併用したグループでより大きな改善幅が確認され、その効果は3ヶ月後の追跡調査でも維持されていました。

これらの研究に共通しているのは、いずれも数週間という比較的短期間の介入で、姿勢を示す角度に統計的に意味のある変化が生じている点です。つまり、姿勢は「生まれつきの体型だから仕方ない」ものではなく、継続的な運動によって変えられる部分が大きいということが、複数の研究で裏付けられています。

自分の姿勢を簡単にチェックする方法

  • 壁に、かかと・お尻・肩甲骨・後頭部をつけて立ってみてください
  • 後頭部が壁につかない、または大きく力を入れないとつかない場合、頭部が前方に出ている可能性があります
  • 横から自分の姿勢を写真に撮り、耳の穴と肩の位置を結んだ線が垂直に近いかどうかを見るのも簡単な方法です

理学療法士が勧める、顔のたるみ対策としての姿勢改善

顔のたるみ対策というと表情筋トレーニングやマッサージが思い浮かびますが、根本にある姿勢を整えることも同じくらい重要です。

  • 胸を開くストレッチ:デスクワークの合間に、両手を後ろで組んで胸を開くストレッチを行う
  • あご引き運動:あごを軽く引いて頭の位置を後ろに戻す動きを、1回5〜10秒、こまめに繰り返す
  • 肩甲骨を寄せる運動:肩甲骨を背骨に寄せるように動かし、背中の筋肉を使う習慣をつける
  • スマホ・PCの位置を調整する:画面を目線の高さに近づけ、下を向く時間を減らす

これらは特別な道具がなくてもできる運動ばかりです。毎日の生活の中で少しずつ意識するだけでも、姿勢は変わっていきます。

まとめ

顔のたるみというと、つい「加齢のせい」「肌のケア不足」と考えがちですが、姿勢という体全体の要因が関わっていることが、近年の研究から見えてきています。

  • 頭が前に出る姿勢は、顔の組織にかかる重力の向きを変え、たるみを助長する可能性がある
  • 噛む筋肉の緊張バランスが崩れることで、フェイスラインの変化につながることがある
  • 姿勢矯正の運動によって、実際に姿勢の角度が改善することが臨床研究で確認されている

スキンケアや美顔器と合わせて、「姿勢」という視点からも顔と向き合ってみると、今まで気づかなかった変化があるかもしれません。

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